はじめに:360単位と、僕のモヤモヤ
急性期の総合病院で働く作業療法士には、いつも「数字」がついてまわります。
徳洲会グループでは、リハビリスタッフ1人あたりの目安として「月360単位」という目標が示されています。
病院が継続して地域にリハビリテーションを提供していくためには、
ある程度の生産性を維持することは欠かせません。
なので、この数字自体を「悪者」にしたいわけではありません。
一方で、OT部門のマネジャーとして現場に立っていると、
ふとこんな疑問が浮かぶことがあります。
「単位さえ取れていれば、それで本当にいいのだろうか?」
そして、たとえ個人の業務量を達成したとしても、、
「この1年、OTとして何ができるようになったか?」
そんな中で、コーチングの学びの中で出会ったのが、
**「成果目標」と「成長目標」**という考え方でした。
この記事では、この2つの目標を
・医療法人グループの月360単位という現実と
・OTとしての専門性を高めるという想い
にどう結びつけているのか、現場のマネジャー目線でまとめてみたいと思います。
成果目標と成長目標 ― コーチングで学んだ2つのゴール
コーチ・エィで学んだ中で、今のOT部門のマネジメントに定着したい概念が、この2つです。
成果目標:結果として「何を達成するか」
- 売上や件数、単位数など、結果としての数字やアウトカムに関する目標
- 今回でいえば、「1人あたり月360単位」というラインがそれにあたります
- 病院として赤字を出さない、部署としてきちんと貢献するための
**“守りの目標”**とも言えます
成長目標:その過程で「自分がどう変わるか」
- スキル・考え方・行動パターンなど、自分の変化に関する目標
- たとえば、
- 「OTとしての専門性を高める」
- 「どの病棟でも対応できるジェネラリストになる」
- 「出来なかったことが出来るようになる!」
といったものが、それにあたります
- こちらは、誰かに与えられる数値ではなく、
**自分で選び、自分でコントロールできる“攻めの目標”**です
この2つをセットで置いてみると、
- 成果目標だけだと「数字が達成できた/できなかった」で終わってしまう
- 成長目標だけだと「良い学びだったね」で現場の負担が増えるだけ
という片寄りを、少しずつ修正していける感覚があります。
OT部門の成果目標:360単位をどう扱うか
僕の所属している医療法人グループでは、7時間30分の勤務時間で月360単位という目標があります。
これは現場感としても「やや高めだけど、工夫次第でなんとか届くライン」という印象です。
ただ、単純に
「OTは全員、月360単位やってね」
としてしまうと、現場ではこういう歪みが出てきます。
- プリセプターとして新人教育をしているスタッフ
- 院内委員会で資料作成や会議が多いスタッフ
- リーダーとしてメンバーをまとめているスタッフ
- 一方で、特に役割はないが臨床にフルコミットできるスタッフ
そんな中、メンバー全員に「360!」と同じノルマを課すのは、
数字としては「平等」かもしれませんが、実態としてはかなり不公平です。
そこで今は、
- プリセプターや委員会担当のスタッフ → 350単位を目安に
- 特に役割を持っていないスタッフ → 370単位を目安に
のように、役割に応じて成果目標を微調整する方向で考えています。
もちろん、各病棟ごとの患者数や疾患構成の違いもあるので、
ここは病棟リーダーと役職者で相談しながら設定していきます。
数字はあくまで「個人戦」ではなく、
「病棟チームとしてどうやって目標を守るか」
という感覚を大事にしたいと思っています。
OTとしての成長目標:どの病棟でも戦えるジェネラリストへ
一方で、今年度のOT部門の成長目標は、シンプルにこう置きました。
「OTとしての専門性を高める」
当院のOT部門は病棟制を採用しており、
ある程度の期間ごとにローテーションしながら、
- 脳血管疾患の病棟
- 整形外科の病棟
- ICU・HCU
- 内科(呼吸・循環器)
- 外科・がんリハ
- 訪問リハビリ・離島病院への応援など
さまざまなユニットを経験していきます。
これは人手配置の都合というよりも、
**「どの領域でも対応できるジェネラリストOT」**を育てていきたい、という狙いがあります。
正直なところ、
脳血管だけ、整形だけ、ICUだけに慣れてしまうと、
「そこでなら360単位取れるけど、別の病棟に行くと手探り…」という状態にもなりやすいです。
僕が理想として描いているのは、
「脳血管でも、整形でも、ICUでも、内科でも、
どの病棟に行っても安心して担当を任せられるOT」
そんなメンバーが部門の中に増えていくことです。
これほど心強いことはありません。
そのためのツールとして、今年度は、
- 各疾患・病棟ごとの
スキルチェックシート
を運用し始めました。
- 自分がどこまでできているのか
- どこに伸びしろがあるのか
を本人と病棟リーダーで一緒に確認するためのシートです。
※このコンピテンシーシートの内容や運用については、
別記事で改めて紹介したいと思います。
ここで僕が強調したいのは、
専門性が高まれば、評価も介入もスムーズになり、
結果的に単位も取りやすくなる。
ということです。
成果目標と成長目標は、
対立するものではなく、うまく組み合わせれば“良い循環”を作れる関係だと感じています。
両輪を支えるのは、やっぱりミーティングと対話
こうした「成果目標」と「成長目標」の両輪を回していくために、
僕が大事にしているのがミーティングと日々のコミュニケーションです。
OT部門では、こんな形でミーティングを運用しています。
- OTミーティング(第1月曜日)
- 全OTが集合
- 各病棟の単位数の報告
- 今月の方針や課題の共有
- 病棟チームミーティング(月1回)
- 各病棟ごとに実施
- 内容や進め方は病棟リーダーに委ねる
- リーダー・役職者ミーティング(月末)
- 病棟リーダー+OT役職者で集まり
- 患者さんの振り分け、進捗状況、教育の状況などを確認
- その内容を月初のOTミーティングで全体共有
僕はよく、
「忙しいからミーティングができない」のではなく、
「ミーティングをしないから忙しくなる」
と感じています。
タスク過多、業務のミスや漏れ、
「なんで自分だけこんなにしんどいんだろう…」という不満の多くは、
実はスキル不足ではなく“ディスコミュニケーション”から生まれていることが少なくありません。
だからこそ、ミーティングは
「時間を取られるもの」ではなく、
「忙しさやストレスを減らすための場」
として大事にしていきたいなと思っています。
おわりに:2つの目標を持って働くということ
まとめると、今のOT部門のマネジメントでは、
- 部署を守るための成果目標=月360単位
- OTとしてのキャリアを育てる成長目標=専門性アップ・ジェネラリスト育成
この2つの目標を、対話とミーティングを通して両輪で回していく
ということを大事にしています。
単位数だけを追いかけて燃え尽きてしまうのでもなく、
学びや研修だけで現場が疲弊してしまうのでもなく、
「360単位を守りながら、どの病棟でも対応できるOTになっていく」
そんな働き方を、部門全体で目指していけたらいいなと思っています。
今回の記事を書くにあたり、参考にした書籍です。
現場での「あるある」が優しい文体とマンガ調になっているので読みやすいですよー

