認知症ケア専門試験の1次試験は4つの項目で構成しています。そのうちの2項目は過去の記事にまとめていますのでご参照ください。
そして今回は1次試験の4項目のうち、、、
○認知症ケアの基礎
○認知症ケアの実際Ⅰ総論
○認知症ケアの実際Ⅱ各論
○認知症ケアにおける社会資源
「認知症ケアの実際Ⅱ各論」について記載していきます。
今回の項目を理解するためのポイントは3つです。
・BPSDへの理解とその対応をより詳しく把握しましょう
・薬物療法とリハビリテーションの効果や注意点を理解しましょう
・環境支援の工夫や終末期ケアのあり方を学びましょう
今回の項目では認知症ケアのより実践的な技術や知識が必要となります。特にリハビリテーションや環境支援などは認知症ケア専門士として技量が試される非薬物療法的なアプローチになります。
また、薬物療法の問題では効果と注意すべき副作用を覚える必要があります。
これまでの認知症ケアの原理原則をベースに最低限覚えておく必要のある知識もありますので、まとめてみました。
それでは、確認していきましょう!!
BPSDの理解とその対応
認知症に伴う様々な行動や心理症状を「BPSD」と呼びます。そのBPSDの特徴的な行動心理とその対応をまとめました。
①不安
特徴:認知症初期の段階で、今まで出来ていたことが失敗したり、大事なことを忘れてしまったりなどを自分で気づくことがあります。そのため、本人は戸惑い不安になります。
対応:サポートの基本は何でもかんでも手助けするのではなく、本人が出来る部分は自分で行ってもらうように支援すること。周囲の理解と協力が必要。
②拒否
特徴:ここでは状況理解の不十分、妄想、人間関係の要因からくる拒否についてまとめます。
・状況理解が不十分となり、介助に対しても何をされるのかわからないという不安から拒否を示すこともあります。
・妄想による拒否は、本人が強く思い込んで訂正することが難しい状況です。
・人間関係からくる拒否は、例えば仲の悪い家族からの介助は本人のプライドが許さず拒否となります。
対応:
・状況理解が不十分からくる拒否は、理解しやすいように「これから〇〇をお手伝いしますね」という説明を丁寧にしましょう。ゆっくりと繰り返すことも有効です。
・妄想からくる拒否は本人のペースに合わせて、せかさず徐々に散歩をするやお茶を飲む、テレビをみるなど別の行動へと注意を逸らすことで落ち着くことがあります。それでも介護が困難な場合は医療機関と相談して薬物療法なども一つの手段として検討します。
・人間関係由来の拒否は、本人と介助者の間の確執を解消することは難しく、場合によっては他の家族が介入したり、別の介護者を選択することも必要です。
③攻撃的
特徴:認知症により出来ていたことが失敗することにより自信を損ねることがあります。さらに周囲に間違いを指摘されたり非難されることで自尊心が傷つけられ怒りの感情へとなります。
対応:本人への接し方を見直して、さり気なく手助けや助言を行いましょう。特定の人物へ攻撃する場合は接する機会を作らないようにします。サービスを利用して介護環境を変えることも一つのきっかけになって攻撃性が改善することがあります。
④不眠と昼夜逆転
特徴:認知症の30%の割合で睡眠覚醒リズム障害が合併することがあります。中でもアルツハイマー型認知症では夜間の睡眠持続に傷害が出やすく、睡眠時無呼吸症候群も多く現れます。そして、レム睡眠行動障害(大きな声で話す、殴るなど)や睡眠時に手足の運動を周期的に繰り返す四肢運動障害などもあります。特徴としては、昼夜逆転と夕暮れ症候群があります。
・昼夜逆転:昼に寝て夜に起きる状態。喪失体験や不安からくる心理的な問題や排尿障害、皮膚の掻痒感などの身体状況。そして向精神薬などの薬物の影響などが考えられます。
・夕暮れ症候群:夕方になると「家に帰らなくちゃ」と身支度をしたりなど、ソワソワと落ち着かなくなる傾向があります。原因は明らかになってはいませんが、夜間せん妄が関連していると言われています。また女性の場合は主婦や母親としての習慣からくる感情の要因という説もあります。
対応:日中の活動を促し覚醒度を高めることが有効になります。朝に日光を浴びることでメラトニンのホルモンを活性化して、暗くなってきたら部屋の明かりを落として静かな環境で眠るための工夫が大切です。
⑤妄想
特徴:事実ではないことを本人は強く確信しており他者からの修正が困難な思考や判断のことを言います。原因としては内分泌や代謝性の疾患、ビタミン欠乏、薬剤の副作用、脳の疾患などです。主な妄想の種類は以下の6つです。
物盗られ妄想 | お金や貴重品の置き場所を忘れているが、他人に盗まれたという記憶の錯誤や混乱状態 |
被害妄想 | 周りが自分の悪口を言っている、のけ者にしている思い込む |
関係妄想 | 自分に関係ないことを関係があると思い込む |
心気妄想 | 健康について気がかりとなり重篤な病気にかかっていると思う |
コタール妄想 | 心気妄想が進行すると自分の脳や臓器が溶けてなくなる感覚に陥る |
罪業妄想 | 自分は罪深く償いをしなければならないと思う |
対応:妄想に発展する前の猜疑心の状態の際に、次の対応をしましょう。
・本人の訴えを傾聴する
・誤解が生じないようにわかりやすく丁寧に説明する
・興奮した状態の際は話題を変えたり、一旦本人から離れる
⑥人物誤認症候群
特徴:まったくの他人を知人と思い込む。その反対に知人を他人と誤認することです。替え玉錯覚とも言います。原因としては、見当識障害や相貌失認、妄想あるいは幻視などによる要因が考えられます。主な人物誤認症候群は以下の3つです。
カプグラ症候群 | 知人がそっくりの人に入れ替わったと信じ込む状態。事前に見当識障害をはじめとした記憶障害が現れ始めた段階で見られやすい。一番身近な人物が替え玉の対象となりやすい。 |
鏡徴候 | 鏡に映る自分を他人を認識し、そのように振る舞う。認知症が高度に進んだ状態で現れやすい。 |
幻の同居人 | 誰かが自分の家に住んでいると思い込む。せん妄やレビー小体型認知症の幻視との鑑別が必要である。 |
対応:認知症ケア専門士として要因をアセスメントして本人と家族へ対応し状況によっては専門医へ案内します。
要因のアセスメント | 人物誤認が突然起こり、興奮や暴力などのBPSDも同時に現れた場合はせん妄も疑わる。 |
本人への対応 | 指摘や訂正をすることなく、訴えをさり気なく受け止める |
家族へのサポート | 家族の受けるショックは大きい。家族の思いに共感して、認知症の症状であることの理解を援助する。また介助破綻にならないように休息できる機会を企画~提案する |
⑦徘徊
特徴:言葉としては意味もなく歩き回る意味があるが、認知症の人にとっては何らかの理由があり動き出したが、途中で目的を忘れてしまったり混乱しているという解釈ができます。
対応:何よりも本人の安全を確保することが大事です。そのためには介護者が本人の行動に気づくことが必要です。主な手段としては、外出センサーなどの機器を使用したり近隣の見守りネットワークをなどのインフォーマルなサービスを利用することも手段の一つです。
⑧社会的異常行動
特徴:側頭葉や大脳の障害、認知症による判断力の低下、抑制の低下が原因とされています。ピック病などの前頭側頭型認知症では、人格変化によって万引きや性的異常、暴力などの社会的な逸脱行為が見られます。
対応:本人に正常な判断や責任能力がないために起こる行為であり、周囲は犯罪者として扱わず保護する姿勢が大切です。場合によっては医療機関への措置入院も毛対応として考えられます。
⑨異食
特徴:初期の頃は食事の好みの変化が現れます。さらに進行すると味覚や嗅覚にも影響が出てきます。高度に認知症が進行すると、食事に関する認知機能が低下し食べ物の認識が乏しくなり異食へと発展します。
対応:異食にならない環境へ整えることです。本人が過ごす生活周辺の整理整頓、清潔にするようにします。
⑩せん妄
特徴:一時的に脳の機能が低下したことで起こる意識障害です。意識の清明度だけでなく興奮や幻覚などの症状が出現します。原因としては以下の5つがあります。
・薬剤性:抗不安薬や抗うつ薬、抗コリン薬、抗パーキンソン薬など
・脳器質性疾患:脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、脳炎、脳血流量の低下など
・代謝疾患:糖尿病、肝臓疾患、腎障害など
・その他:アルコールや環境の変化、心理的な不安、不眠、昼夜逆転など
対応:生活リズムを整えてるようにします。また服用している薬剤の副作用にも留意しましょう。そしてせん妄発症には心理的な要因もあるので環境変化やストレスを避けるように配慮します。
薬物療法とリハビリテーションの効果や注意点
○認知症の薬物療法
ここでは中核症状とBPSDのそれぞれに対して効果のある薬物療法とその注意点をまとめました。
認知機能障害に対する薬剤の影響は、症状や年齢、体重に対する薬剤の量、全身状態なども考慮する必要があるため、、、
試験問題としては、自分が認知症ケア専門士になったとイメージして、、、
医師や薬剤師に必要な情報を提供出来るだけの知識が症例問題で問われます。
★アルツハイマー型認知症
薬剤名 | 商品名 | 内容 |
ドネペジル | アリセプト | 感情の安定化、注意力、活動性の向上などの作用。ゼリー剤やドライシロップなど5つの剤形がある。 |
ガランタミン | レミンール | 認知症初期から中期にかけて用いられる。注意力の向上が期待できる。 |
リバスチグミン | イクセロンパッチ | 消化器系の副作用が懸念されるため経口剤ではなく、湿布剤として利用。中等度以降の進行した状態でも有効とされている。 |
メマンチン | メマリー | 徘徊や常同行動、興奮、攻撃性の予防、改善作用がある。 |
★レビー小体型認知症
ドネペジルの有効性が報告されている。また抑肝散やメマンチンをコリンエステラーゼ阻害薬と併用することで、幻覚や行動異常に有効な場合がある。
★前頭側頭型認知症(主にピック病)
メマンチンが行動異常に有効とされている。
BPSD | 薬剤(商品名) | 留意点 |
幻覚/妄想 | ・塩酸チアプリド(グラマリール) ・非定型抗精神病薬(リスパダールなど) ・コリンエステラーゼ阻害薬 ・抑肝散 ・メマンチン | 非定型抗精神病薬をレビー小体型認知症に用いいることは原則として禁忌である。パーキンソニズムを助長するリスクがある。 |
興奮/攻撃的 | ・メマンチン ・抑肝散 ・塩酸チアプリド ・非定型抗精神病薬 | メマンチンや塩酸チアプリドを低用量から開始して症状に合わせて調整する。 |
うつ症状 | ・SSRI(レクサプロ) ・SNRI(サインバルタ) ・NaSSA(リフレックス) | 吐き気や眠気などの副作用を生じやすい。低用量から開始して症状に合わせて調整する。 |
徘徊 | ・メマンチン ・抑肝散 ・塩酸チアプリド ・SSRI ・SNRI ・NaSSA | メマンチンや抑肝散が奏功する場合がある。しかし、眠気やふらつきなどの副作用に気をつけて転倒などのリスクに注意する。 |
不眠 | ・非ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤 ・ゾルピデム(マイスリー) ・ゾピクロン(アモバン) | ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤では筋弛緩作用があり転倒による骨折のリスクが高い。 |
失禁 | ・コハク酸ソリフェナシン(ベシケア) ・イミダフェナシン | 一種の切迫性失禁であることから、尿意を感じない、トイレの場所がわからない場合もあるため、適時トイレ誘導や夜間の水分調整、トイレの場所の明示、居室からトイレまでの動線の工夫などを行う。 |
薬剤のややこしいところは、一般名と商品名があることです。実際の現場では商品名でやり取りしていることが多い印象です。ちなみに、テスト問題としてはどちらの名称でも出題されます。
○認知症のリハビリテーション
リハビリテーションの各専門領域の特徴を理解して、認知症の人の症状に合わせたアプローチを理解しましょう。
また認知症の人の全体像を把握するための「ICF」の概念を把握してリハビリに活かしていきましょう。
リハビリテーションは専門職ではなくても、日々の認知症ケアに活用できるアプローチです。
リハビリテーションとは?
病気や怪我などによって生じた身体的・精神的な障害を以前の健康な状態に回復するための治療や訓練を指します。広義としては、人間としての権利や尊厳が何らかの事由で否定されても、その人の身分や名誉を回復するための全人間的復権を意味します。
ICF(国際機能分類)の概念
対象者を①健康状態 ②生活機能 ③背景因子をカテゴライズしてそれぞれの構成要素がお互いに作用しているため、対象者の全体像をビジュアルとして把握しやすいです。
ICFの中でも②生活機能を細分化すると「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」に分類できます。
③背景因子では「環境因子」、「個人因子」となります。
矢印が相互に関連しているためお互いに影響を受けます。
続いて、リハビリテーションの各専門領域の特徴をおさえましょう!
○作業療法の特徴
個別性に応じた多様な作業活動を通して心身機能に刺激を与え、交流による喜びや楽しみなどの感情を共有できる特徴があります。そして、様々な作業を通して主体的な生活の改善を図ることを目的としています。
○作業療法士の役割
・生活行為向上をマネジメント
・作業活動の分析
・認知症初期集中支援チームの一員として活動
○理学療法の特徴
身体機能に障害に対して、主に基本動作能力を回復するために、運動療法、物理療法などの手段を用いてアプローチする特徴があります。
○理学療法士の役割
・対象者の身体機能の評価
・歩行やバランス能力の維持や改善
・対象者の運動習慣の提案や様々なエクササイズの提供
○言語聴覚療法の特徴
コミュニケーションや摂食・嚥下機能の評価とアプローチを行うことが特徴です。そのため、脳機能の理解が必要になります。
○言語聴覚士の役割
・認知機能検査や高次脳機能検査を実施
・コミュニケーションの評価とその手段を確保
・摂食、嚥下の評価と適切な食事介助や食形態を提案
環境支援の工夫や終末期ケアのあり方
○在宅と施設における環境支援
適切な環境支援は認知症のBPSDを軽減させて心身の安定をもたらす事が知られています。
また、高齢者自身の環境適応能力と環境負荷との適正なバランスを考慮した支援が必要です。
住み慣れた、馴染みのある環境の中で生活を継続するなど工夫しましょう。例えば、ユニットケアやグループホームなどは小規模で家庭的な環境を形成することが可能ですので、急激な環境変化を避けて環境負荷を抑制し、BPSDの低減や精神の安定と心身機能の維持に有用とされています。
個室ユニットケア型施設
施設であってもできる限り在宅に近い環境で住居者一人ひとりの個別的な生活環境やリズムを支援するためのケアです。
リロケーションダメージ
住み慣れた、馴染みの環境で生活できなくなって受ける心身的なダメージのこと。認知症の人は急激な環境の変化により、自身の生活リズムが崩れたり、いつもとは違う環境に順応できずにBPSDを助長しやすい傾向にある。
PEAP日本版3
(プロフェッショナル エンバイロメンタル アセスメント プロトコル)
認知症高齢者への環境支援のための指針として、介護スタッフによる生活環境作りの手がかりに活用されています。
・見当識への支援
・機能的な能力への支援
・環境における刺激の質と調整
・安全と安心への支援
・生活の継続への支援
・自己選択への支援
・プライバシーの確保
・ふれあいの促進
○認知症の人の終末期ケア
終末期とは「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な限りの治療にいよっても病状の好転や進行の措置ができなくなり、死が間近な状態」とされ、生命の危機的状態を指します。
・痛み
終末期になると自ら痛みの訴えをすることが難しくなるので、表情などからよみとり対応します。褥瘡の痛みでは、適切なタイミングでの体位交換やエアーベッドの導入、クッションを用いた安楽なポジショニングを行います。
・呼吸困難
原因としては、気道の狭窄、誤嚥性を含む肺炎、胸水の貯留、呼吸筋の低下など呼吸肺機能が低下した状態とそもそもの体内でのガズ交換機能が低下した状態などが考えられる。
対応としては症状に応じて体位の工夫や痰吸引、気道確保、酸素吸入などがあります。
・日常生活のケア
食事 | 本人の好みを用意して食べやすい食形態で用意する。また誤嚥を防ぐポジショニングで提供する。 |
排泄 | 徐々に内部臓器が低下するため、インアウトバランスをチェックする。 |
清潔 | 入浴の負担が大きい場合は清拭を行う。皮膚の清潔と衛生を保ち時には足浴や洗髪などケアを行うことで精神賦活を行う。また、口腔内のケアを行うことも誤嚥性肺炎の予防となる。 |
本人の不安に対して傍に誰か大切な人がいることが一番のケアになります。手を握り、身体をさするなど触れ合うケアが大切な心理的なケアになります。
また、家族として最善を尽くしたと考えることが出来るようにサポートします。また、最後は家族で過ごすことのできる部屋を用意することも大切です。
通常は死後2~3時間後に死後硬直が始まります。それまでに一連のケアを家族と一緒に行い十分なお別れをサポートします。
①身体を整える
②湯灌・お清め
③希望の衣服(左前・縦結び)と新しい寝具
④エンゼルケア、エンゼルメイク
⑤安置の場所(北枕、白布)
⑥死に水(末期の水)
本人が亡くなったあとも家族へのサポートまでが終末期ケアです。遺体が自宅に戻った後や葬儀が済んだ後も訪問や電話連絡などで家族の悼みを慰め、家族の気持ちを和らげる対応も大変重要です。