沖縄で暮らすうえで、自動車は「生活の足」であり、「仕事の道具」であり、人によっては「趣味そのもの」でもあります。
脳卒中や高次脳機能障害、身体障害を呈した方にとって、運転再開ができるかどうかは、生活の質に大きく関わるテーマです。
その中で、医療(OT)、自動車学校、免許センターが一体となって「安全」と「その人らしさ」の両立をめざしているのが、**「ちゅら島の移動を考える会」**です。
今回は、2025年に開催した第2回 合同研修会の様子を、全3回の連載で振り返っていきます。
第1回となる本記事では、事前にOTから集めた質問と、免許センター大島さん(安全運転相談係長・警部補)による講義の内容を中心に紹介します。

「ちゅら島の移動を考える会」とは?
「ちゅら島の移動を考える会」は、2019年ごろに立ち上がった、
医療機関・自動車学校・免許センターがゆるやかに連携する協議の場です。
これまでに、
- 病院評価 → 実車評価 → 診断書 → 安全運転相談
という一連の流れの整理 - 連携シート・実車評価シートの作成と運用
- オンラインも活用した事例検討や情報共有
などを重ねてきました。
2025年は、**カデナ自動車学校が新たに参入し、2回目の合同研修会を開催した“深化期”**にあたります。
第2回合同研修会の概要
今回の研修会は、
**「第2回 ちゅら島の移動を考える会 合同研修会」**として、以下のような流れで実施しました。
- 場所:沖縄リハビリテーションセンター病院
- 日時:2025年9月28日 9:30〜15:00
- 参加:
- 津嘉山自動車学校・名護自動車学校・カデナ自動車学校の指導員・技能検定員
- 沖縄県公安委員会(運転免許センター)の安全運転相談係
- 沖縄県作業療法士会「運転外出サポート班」を中心としたOT など
タイムスケジュール(抜粋)はこんな感じです。
- 10:10〜 【講義】運転再開と法令・診断書に関する実務(免許センター 大島係長)
- 11:00〜 【事例共有】実車評価で対応に悩んだケース紹介(津嘉山・名護自動車学校)
- 11:50〜 【グループ対話】実車評価での困りごと共有
- 13:30〜 今後の連携・ちゅら島の移動を考える会の方向性ディスカッション



事前にGoogleフォームで集めた「OTからの質問」
今回の研修会の準備で、まず大切にしたのが、
**「現場のOTが、普段どこでモヤモヤしているのか?」**を可視化することでした。
そこで、運転外出サポート班から免許センター大島さんへ講義を依頼する際、
OTからの質問をGoogleフォームで事前に募集しました。
集まった質問を大きく分けると、次のようなカテゴリに整理できます。
- 診断書の書き方・内容に関する疑問
- 「運転適性の判断に必須な項目は何か?」
- 「高次脳機能検査の結果を、どこまで専門用語で書いてよいか?」
- 「診断書の備考欄には何を書いてほしいか?」
- 道路交通法の基本と、医療側が理解しておきたいポイント
- 「これは必ず押さえてほしい、という条文や考え方は?」
- 「患者さんにアドバイスするとき、最低限知っておくべきことは?」
- 公安委員会からリハビリ専門職への期待
- 「どの点を評価し、どの能力を重視しているのか?」
- 「『絶対にやってほしい検査』はあるのか?」
- 安全運転相談(旧・運転適性相談)の実際
- 「どんな流れで、どこまで評価しているのか?」
- 「相談に行かなかった人の事故例はあるのか?」
- 事故事例と、その後の責任・保険の扱い
- 「脳卒中後に自己判断で運転再開して事故を起こしたケース」
- 「保険適応や、罰金・懲役などの実際は?」
見ていただくと分かる通り、
「診断書ってこれでいいの?」「どこまで書くべき?」
という実務的な不安と、
「道路交通法のことを正しく知らないまま、患者さんに助言しているかもしれない…」
という戸惑いがにじみ出ています。
この“リアルな声”をベースに、今回の講義内容を組み立てていただきました。
免許センターからの講義
重大事故が変えた「安全運転相談」のあり方
講義の前半では、まず**安全運転相談(旧:運転適性相談)**が大きく転換した背景となる、全国の重大事故が紹介されました。
- 栃木県鹿沼市のクレーン車事故(児童6名死亡)
- 京都市祇園の軽ワゴン車暴走事故(死亡8名・重軽傷12名)
いずれも、てんかんなどの持病がありながら自己判断で運転を続けた結果起きた事故です。
これらを受けて2014年(平成26年)の道路交通法改正では、
- 質問票への虚偽申告に対する罰則
- 医師の届出制度(一定の病気に該当する場合の任意届出)
- 「一定の病気」が疑われる事故運転者に対する暫定的な免許停止
などが整備されました。
沖縄でも、浦添市伊祖でのダンプカー事故(母子死亡・症候性てんかん)が大きな契機となっています。
安全運転相談の流れと、病気別相談件数
続いて、安全運転相談の実際の流れが共有されました。
- 所要時間:おおよそ30分(身体障害があり実車を伴う場合は1時間強)
- 持参物:
- 沖縄県公安委員会提出用の診断書
- 運転免許証(もしくは本籍入り住民票抄本)
- 障害者手帳、ICD手帳、ペースメーカー手帳、お薬手帳 など
- 内容:
- 発症状況や経過の聴取
- 見当識や認知機能の簡単なチェック
- 必要に応じたCRT検査(運転適性検査機) など
令和6年の病気別相談件数も示され、
脳卒中・精神障害・てんかん・認知症・身体障害など、多様な背景の相談が日々寄せられていることが共有されました。

公安委員会がOTに期待していること
後半では、今回のGoogleフォームでの質問にもあった
**「公安委員会がリハビリ専門職に期待していること」**が整理されました。
① やってほしい高次脳機能検査
「これだけやっていればOK」という限定はしない、という前提を置きつつ、
運転に必要な認知・予測・判断・操作の能力をみるうえで、代表的な検査が挙げられました。
- 半側空間無視:BIT 行動性無視検査
- 注意機能:TMT-J(A・B)
- 認知・見当識:MMSE(あるいはHDS-R)
- ドライバー特性:SDSA(脳卒中ドライバースクリーニング)
これらは、日本作業療法士協会や日本高次脳機能障害学会のガイドラインにも位置づけられている検査群です。
② 診断書の備考欄をもっと活用してほしい
大島さんからの“お願い”として、特に強調されていたのが、
「診断書の備考欄に、検査名と結果を書いてもらえると、とても助かる」
というメッセージでした。
- ADL自立かどうか だけでなく
- どの検査を、どのような結果で実施したのか
が分かることで、
- 安全運転相談での問診や判断がスムーズになる
- 高次脳機能障害の有無・程度を、より客観的に捉えられる
といったメリットがあります。
③ 実車評価は「資格を持つ指導員」に任せる
一方で、
「実車評価は、基本的に自動車学校の指導員が行うものであり、公安委員会として直接見ることはしない」
という役割分担も明確にされました。
だからこそ、
- OTが検査結果を“運転行動に翻訳する”
- 自動車学校が実車での様子を“紙に落とし込む”
- 免許センターが法令・安全の観点から最終判断する
という三者の連携が重要であることが、改めて共有された形です。
おわりに:第2回へつづく
第1回となる今回は、
- OTから免許センターへの事前質問
- それに応える形で行われた道路交通法・安全運転相談の講義
- 公安委員会がOTに期待している役割
を中心に紹介しました。
次回(第2回)は、
津嘉山自動車学校・名護自動車学校からの事例共有と、
「実車評価での困りごと」をめぐるグループ対話
を取り上げます。
実車評価の“グレーゾーン”をどう扱うか、OTとしてどこまで踏み込んで良いのか——
現場のリアルな声をお伝えできればと思います。


