作業療法士として、基本的なバイタルサインや生理解剖学などの「医学モデル」の知識も持ちつつ、
本当に役に立つ生活支援、対象者の生活をしっかりみつめるという「生活モデル」のスタンスを取った関わりも大切です。
今回は、日本作業療法士協会の元会長の、寺山久美子氏の考え方をベースにADLアプローチに大切な6つの視点を紹介します。
https://www.jaot.or.jp/files/page/kankobutsu/pdf/ot-news2023/2023-3.pdf
日本作業療法士協誌 第132号
寺山氏はソーシャルリハビリテーションという概念を提唱されていて、機能訓練を経たあとのどのようにするべきかという課題のもと、様々な活動に尽力されています。
その中でも「住環境福祉コーディネーター」は寺山氏が中心となって創設した民間資格です。
作業療法の創設期を支えた寺山氏から学び、僕の所感も加えたADLアプローチの視点を記載していきます!
①「できない」を「できる」まで反復練習
脳卒中にしても、整形疾患、呼吸器など多岐にわたる対象者を作業療法士は支援します。
なので、それぞれの障害特性を理解したうえで、本人が望む「したい」「する必要のある」と思うADL動作を、、、
「できない」状態から「できる」状態まで反復練習する。
という考えです。
その時に作業療法士として、ただ「できない」から「できる」までやみくもに反復練習するのではなくて、、
細かく作業分析して、段階付を行い、できそうな動作から反復練習を積み重ねて、一連のセルフケアに落とし込んでいきます。
②「方法を変えて反復練習」
一連の動作を反復練習して、動作の定着が図れない場合は、別の方法を試します。
作業療法士に大事な視点は、方法論に固執しないことだということです。
今現在行っている方法はあくまでも「手段」であり、「目的」に向かうためには別の方法も試しながら、対象者にとって反応がよい手段を選択するということです。
作業療法士の中には、たくさんの勉強会や実技系のセミナーに参加して、その手技を身に着けたい気持ちで、担当の患者さんに行うことがあります。
一理として、、、
アプローチの答えはセミナーの良し悪しではなく、
患者さんが答えを教えてくれます。
患者さんの想いを汲み取り、できる方法を一緒に考えながら反復練習をする。
それが、寺山氏の考えでもあるかもしれません。
③「自助具・福祉用具を導入する」
この考えは、寺山氏から作業療法士の皆さんへ強く伝えたいメッセージのひとつかもしれませんん。
先に記載した、住環境福祉コーディネーターの資格を創設した方ですので、
作業療法士は、「生活行為」を扱う(唯一の)医療従事者の意識を持つことの大切さを問いていると思います。
特に、生活していくうえで上肢操作、道具の使用は事欠きません。
何かしらの障害を呈されて、生活行為がままならないときに、その障害特性と自助具や福祉用具の汎用性をつなぎ合わせる役割を作業療法士が担っていると思います。
④「環境調整を行う」
こちらは、「自助具・福祉用具を導入する」と似ている視点ですが、より大きな捉え方だと思います。
その自助具や福祉用具はピンポイントでの活用になりますが、
「環境調整を行う」に関しては、対象者の生活空間にもアプローチする視点だと思います。
生活行為での動線の評価や一日の中で多く過ごす時間、場所の確認など、
その対象者の生活背景を捉えて、過ごしやすい環境を整えること視点ですね。
⑤「できない部分を人的・物的介護で補う」
これは、社会サービスの利用などを提唱していると思います。
例えば、入浴がしたいけど、独立してできない場合は、入浴用のリフターを使ったり、
デイケアやデイサービスなどの入浴サービスを受けたりなどの視点ですね。
これも、どれだけ社会的な資源を活用できるかという知識を持つこと、
そして、その社会資源の活用を検討しコーディネーター的存在としても作業療法士の役割ということになります。
⑥「ADLアプローチは認知機能などにより異なる」
これは、寺山氏の記載でも重要としている考えです。
認知症でも高次脳機能障害でも発達障害でも、作業療法士はその障害特性にしっかりと根づいて関わることの大事さを提唱していました。
医療従事者の中でも、医学モデルと生活モデルのどちらの視点も持っており、対象者の生活行為にアプローチできる作業療法士の存在を寺山氏は、、
「ほかの福祉職種とは一味違った作業療法士ならではの特徴なので、とりわけ大事にしてきました。」
と語っています。
まとめ
リハビリテーションの介入は、「ただ座れればいい」「立てるようになればいい」とか、だけでなくて、その先に、患者さんの生活を見据えたアプローチが大事であるということです。
機能低下を生じても
日常生活能力が低下しない方法を考える!
これが、ADLを支援する作業療法士としての、僕のアイデンティティとなっています。
今回の記事で伝えたかったことは、僕ら作業療法士が関わる患者さんはいろんな方がいますし症状やバックグランドも様々だと思います。なので、ADL訓練って決まったマニュアルはないですし、基本的にはケースバイケースだと思います。
その中で患者さんの生活を見据えた柔軟な発想とオーダーメイドな関わりが、作業療法士の強みかな~と思います。