成長目標を“カタチ”にする ~忙しい急性期OT現場で“育てる”仕組みを考える~
はじめに:成長目標を“ツール”に落とす
前回の記事では、
OT部門のマネジメントとして、
- 部署を守るための成果目標=月360単位
- OTとしてのキャリアを育てる成長目標=専門性アップ・ジェネラリスト育成
という「2つの目標」を大事にしていきたい、という話を書きました。
では、その成長目標を日々の臨床レベルまで落とし込むには、何が必要か?
そこで今年度から本格的に動かし始めたのが、
当院OT部門で運用している 「疾患別目標達成チェックリスト」 です。
今回は、
- このチェックリストを成長目標を達成するためのツールとしてどう位置づけているか
- どのように病棟チームで作り上げているか
- リーダー役職者ミーティングでの運用・進捗共有
- 文言を行動ベース・ルーブリック的にしている理由
についてまとめてみたいと思います。
成長目標を達成するためのツールとしての「疾患別達成リスト」
成長目標として掲げたのは、
「OTとしての専門性を高める」
という、ある意味とてもシンプルで、でも奥が深い目標です。
ただ、このままだとどうしても
- 「具体的に何ができれば“専門性が高まった”と言えるのか?」
- 「自分はいま、どのレベルにいるのか?」
- 「次の1年で、何を意識して伸ばせばいいのか?」
が、ぼんやりしがちです。
そこで、
- 脳血管
- 整形外科
- 呼吸・内科
- 外科・がんリハ
- 早期離床
- 循環器…など
当院OTが担当している主な病棟・領域ごとに、
「この病棟で一人前のOTと言えるには、どんなことができていてほしいか?」
を言語化したものが、疾患別目標達成チェックリストです。
このリストは、
- 新しくその病棟に配属されたときのオリエンテーションシート
- 自分の成長目標を考えるための自己評価シート
- ローテーション前後に振り返るための到達度チェック表
という3つの役割を持っています。
内容は「上から降ってくるもの」ではなく、病棟チームで対話して作る
このチェックリストは、僕ひとりが机上で作ったものではありません。
基本方針として大事にしているのは、
「リストの内容は、病棟チームメンバーで対話を通して一緒に作る」
ということです。
具体的には、
- その病棟をよく知っている中堅OT
- 病棟リーダー
- 時にはPT・STや看護師の視点
も交えながら、
- 「この病棟でOTが押さえておきたい評価って何だろう?」
- 「リスク管理で外せないポイントは?」
- 「Drや看護師から“このOT安心して任せられる”と思ってもらえる条件って?」
といった問いを投げかけていきます。
- カテゴリ(例:評価・リスク管理・ADL/IADL・退院支援・多職種連携 など)
- それぞれのカテゴリの**「できている状態」**
を言葉にしていきます。
このプロセスには時間もエネルギーもかかりますが、
ここをチームで一緒に考えること自体が、すでに教育の一部だと感じています。
曖昧な言葉はNG。行動ベースの発想で書く
チェックリストの文言で、こだわっているポイントがひとつあります。
それは、
「曖昧な表現ではなく、行動ベースで書く」
ということです。
例えば、
- 「高次脳機能障害の評価ができる」
だと、できているのかどうかが人によって解釈が分かれてしまいます。
これを、
- 「自動車運転 に関わ る高次脳機能検査 を実施できる(必 須 :MMSE、TMT-J、レイの図、FAB、サブテスト:SDMT、BIT、レーブン、コース立方体)」
- タ ップテス ト前後 の リハ評価 ができる(TUG、CS-30(30秒起立動作)、握力、MMSE/HDS-R)
のように、具体的な行動・状態がイメージできる形にします。



特に新人OTや担当病棟が初めてのOTには、ひとつの行動指針(コンパス)のような手順書になります。
そのため、
- 自分が今どの段階にいるのか
- どこを伸ばせば次のステップに行けるのか
が、スタッフ本人にも、リーダーにも見えやすくなります。
運用の進捗はリーダー役職者ミーティングで共有す
チェックリストは作って終わりではなく、どう回すかが勝負です。
当院OT部門では、運用の流れをざっくりこんな感じにしています。
- 配属時・年度初め
- 病棟リーダーとスタッフで一緒にチェック
- 「今ここまでできている」「この1年はここを重点的に伸ばそう」といった話をする
- 病棟チームミーティングの中で
- 新しく身についた項目があれば、チェックを更新
- うまくいった事例や、逆に難しかったケースを共有する
- 月末のリーダー役職者ミーティングで進捗共有
- 「今月は○○病棟で、◯年目スタッフの◯◯さんがここまで到達した」
- 「この病棟はリストのここの項目でつまづきやすい」
といった情報を、各病棟リーダーと役職者で共有 - 必要に応じて、部門としての勉強会テーマや、OJTのサポートにつなげていく
こうすることで、
- 成長が本人だけの自己満足で終わらない
- リーダー同士で教育の視点をシェアできる
忙しい中ですがこの状態を継続することが大事です。
正直なところ:病棟ミーティングが理想どおり回らない現実もある
とはいえ、現場はきれいごとだけではありません。
急性期病棟では、入退院も多く、
「今日はもうミーティングどころじゃない…」という日も当然あります。
- 病棟ミーティングが飛んでしまう
- チェックリストを見直すタイミングが後回しになる
- 「やらなきゃ」とは思いつつ、日々の業務に流される
そんな場面も、正直たくさんあります。
でも、この“うまく回りきれていない感覚”こそが、
次の改善の種だと思っています。
リーダー役職者ミーティングでは、
- 「ミーティング時間をどう確保するか」
- 「朝の10〜15分でもできる“病棟ミニミーティング”にしてみようか」
- 「全部をその場で評価するのは難しいから、事前に自己チェックしてきてもらおう」
など、運用の工夫も含めて話し合っています。
おわりに:ツールの目的はチェックではなく、対話を生むこと
疾患別目標達成チェックリストは、
- 成長目標である**「専門性アップ・ジェネラリスト育成」を
日々の臨床レベルに落とし込むためのツール**です。
でも、僕が本当に大事にしたいのは、
チェックリストをきっかけに、
病棟チームの中での「対話」が増えること
です。
- 「ここまではできるようになりました」
- 「ここの項目が、まだイメージしにくいんです」
- 「この項目をクリアするために、こんな症例に入ってみたいです」
そんな会話が生まれるなら、
リストそのものは、少々いびつでも構わないと思っています。
前回の記事で書いたように、
- 部署を守るための成果目標=月360単位
- OTとしてのキャリアを育てる成長目標=専門性アップ・ジェネラリスト育成
この2つの目標を、
対話とミーティングを通して両輪で回していくこと。
疾患別達成チェックリストは、そのための一つの支え棒のような存在です。
完璧ではないけれど、
不完全なままでも使い続けながら、
OT部門全体として「学び合う文化」をつくっていけたらいいなと思っています。
今回の成長目標を考え、そしてそのツールとしてのチェックリスト作成にあたって参考とした書籍です。
ルーブリック評価は、行動ベースやパフォーマンスを評価するために必要な考え方ですー


