前回の記事では、認知症ケアの基礎を記載しまいた。
今回は1次試験の4項目のうち
○認知症ケアの基礎
○認知症ケアの実際Ⅰ総論
○認知症ケアの実際Ⅱ各論
○認知症ケアにおける社会資源
「認知症ケアの実際Ⅰ総論」の学習ポイントについて3つまとめました!
・ケアの原則に沿って認知症の人とのコミュニケーションの取り方を学びましょう
・認知症ケアのアセスメントから援助技術に至るまでのプロセスを把握しましょう
・身体拘束と虐待問題について理解し虐待ケースの援助の基本を理解しましょう
今回の項目では、認知症ケアの原則や倫理的視点に関連したコミュニケーション、支援までのプロセスなどの問題が出題されます。
そして、虐待問題に関しては、発生要因や養護者及び医療・介護スタッフの支援を含めた虐待への対応に関する出題が予想されます。
それでは確認していきましょう!
認知症ケアの原則と倫理に伴ったコミュニケーション
認知症ケアに求められる「専門的な援助関係」とその関係を構築するために必要な対人援助技術の行動7原則(バイスティックの7原則)をおさえておきましょう!
この原則は認知症ケアを包括するすべての対人援助技術に通じる内容になっています。
①個別化 | 認知症の人を個人として認める | 他の人と比較したり一般論で対応したりするのではなく、その人の個性や生活歴、価値観や好みを尊重する |
②意図的感情の表出 | 認知症の人の感情表現を大切にする | 喜びや期待、悲しみ、怒りなどの感情を表に出したい、聞いてほしいという思いを大切にする。感情を表に出せるように意図的に関わる |
③統制された情緒的関与 | 適度な共感的態度で関わる | 支援者が自分の感情をコントロール出来ずに過度に感情移入してしまうと共感的態度を保つことが出来ない |
④受容 | 受け止める | 認知症の人の感情や現実をまずは全面的に受け止める |
⑤非審判的態度 | 認知症の人を一方的に非難しない | 非難や叱責により認知症の人は不安や恐怖、怒りを覚えて信頼関係を築くことが出来ない |
⑥自己決定 | 認知症の人の自己決定を尊重する | 認知症の人が自分自身で問題解決が出来るように支援して、その自己決定を尊重する |
⑦秘密保持 | 認知症の人のプライバシーを守る | 秘密を保持して信頼感を醸成する |
さらに認知症ケアの倫理として、「対人援助専門職の職業倫理」があります。
それは、社会的信用を確保するために基本的人権の尊重のもと、専門性を発揮するための行動規範をおさえましょう。
自律 | 自己決定の重視。そのための説明責任を担う |
不悪行 | 危害を加えない |
善良 | 本人の福祉の促進を図る |
公正 | 利権の平等性を追求する |
誠実 | 信頼関係を重視する |
正直 | 嘘をつかない |
連携 | 多職種やコミュニティと連携する |
研鑽 | サービスの質向上のため努力する |
この行動規範はもとよりパーソン・センタード・ケアを実現するにふさわしい倫理観が求められます。
そうして、認知症ケアの原則と倫理を理解したうえで、、、
認知症の人とのコミュニケーションの4つの視点を理解しましょう。
基本的な視点 | 内容 |
個別化の視点 | 認知症の人を個人として捉えて、身体面の残存機能や心理面の意欲、前向きな気持など「できること」を重視する。 |
本人が中心となって取り組める視点 | 自己決定を支える姿勢と自己決定に至るまでのプロセスを重視する。 |
信頼に基づく援助関係を形成する視点 | 認知症の人が支援者と「繋がっている」と実感でき、「居場所」が得られ、自分という「存在」を確認できることが重要 |
社会環境の中で本人を捉える視点 | 認知症の人を取り巻く環境に目を向けて働きかける対象を広げる。 本人が納得のいく今後の生活のあり方を見つける |
また、コミュニケーションの特性として以下の2つがあります。
○バーバルコミュニケーション(言語)
発言の意味は一緒でも、言葉の選び方やニュアンス、声量、スピード、声質などもコミュニケーションに影響を与える要素になります。
○ノンバーバルコミュニケーション(非言語的)
感情の伝達において重要な手段となります。特に表情の豊かさやジェスチャー、スキンシップなども非言語として重要な要素です。
今回の認知症の人とのコミュニケーションでは、基本的にはパーソン・センタード・ケアを理解して、認知症の人がみせる表情や態度などによる意図的、無意識的なメッセージをキャッチして、本人の理解につなげることが大切になってきます。
認知症ケアで重要なアセスメントと実践のプロセス
認知症ケアでの基本的なプロセスとしては下の図の通りです。
「アセスメント」→「ケアプラン」→「ケアの実践」→「ケアの評価」
①「アセスメント」としては、
認知症の人の全体像を把握することです。そのためには観察評価や家族、他職種からのヒアリングなどの情報収集が欠かせません。
さらにアセスメントツールを活用することも大切です。
領域 | 質問方式 | 観察方式 |
認知機能 | ・MMSE ・HDS-R →本人への質問。各質問が点数化でき30点満点 | ・柄澤式:老人知能の臨床的判断基準 ・CDR ・FAST |
ADL | ・N-ADL:介護者への質問 ・DAD:過去2週間の状態を観察して介護者へ面談 ・IADL:本人や介護者への質問 | ー |
BPSD | ・BEHAVE-AD:過去2週間の状態を観察して介護者へ面談 ・DBDS:介護者への質問 | ー |
その他 | ・GDS:老年うつ病スケール | ・DRS:せん妄評価尺度 |
アセスメントツールはさまざまありますが、それぞれの特徴を理解して目的や対象者に合わせて活用することが大事です、
アセスメントの共通の視点とては以下の6つがあります。
①健康の視点
②安全の視点
③自立支援の視点
④安心の視点
⑤個別性の視点
⑥支援体制の視点
②認知症の人の「ケアプラン」としては、
個別性を重視してその人らしく生活するための計画と目標を立案します。下記は重視するポイントです。
①本人・家族の希望を重視 | 本人にも理解でき、その思いに添えるプランを立案する |
②体調管理も重要 | 正常な状態を把握して、「いつもと違う」違和感を早期に発見することが重要 |
③残存機能を活かし出来ない部分を介助 | 出来ることにも注目して周囲の環境にアプローチすることも効果的 |
④ライフストーリーを日常生活のケアに活用 | 個別性のあるケアに繋がる |
⑤生活リズムを整える | 毎日のセルフケアをいつも通りに行い、レクレーションや交流では季節感などの刺激を取り入れたプランにする |
⑥役割を設定する | 「人の役に立つ」という自覚が持てる。しかし失敗体験にならないように注意する |
③「認知症ケアの実践」では、
本人の反応やケアの影響を丁寧に観察して記録に残すことが大事です。記録に残すことでケア実践を他職種へ共有することができるからです。
下記はケアを実践する際の重要なポイントです。
尊厳を守る | 今までの人生を生きてきた一人の人間として尊重されるように接する |
情緒が安定するようなケア | 感情は最後まで残るとされ、ぞんざいなケアを行うと不快な感情となりBPSDに繋がるリスクがある |
ゆっくりとしたペースで、出来ることは一緒に行う | 本人のペースに合わせて過干渉せずにまずは見守る、一緒に行うなど本人が出来たと思えるように関わる |
④「ケアの評価」では、
ケアの実践記録をもとに内容を振り返り、本人の心身の変化や反応などを再評価して次回からのケアでは修正、補足していきます。
そしてカンファレンスにて認知症ケアに関わる保健・医療・介護のチームメンバーがそれぞれの専門的な視点から意見交換を行います。そうして共通理解のもと本人を中心としたケアへ展開していき進めていきます。
そのカンファレンスの際は、本人や家族も参加して希望や意向を尊重します。
身体拘束と虐待への対応
現実問題として実態を理解して対応を考える項目となっています。
実際には身体拘束は良くないよねって、わかっていても多くの施設や病院では書面で家族に同意を取って身体拘束が行われている現状があります。。。
身体拘束の定義としては、
「何らかの用具を使用し利用者の自由な動き、身体活動あるいは利用者自身が自分の身体に通常の形で触れることを制限する」としています。
そして、介護保険制度が始まる時期の1999年3月31日、厚労省は介護施設等の運用基準に「身体拘束の禁止規定」を入れた省令を発令しました。
身体拘束への対応(身体拘束ゼロ作戦)として、ソフト面とハード面の見直しがされました。
・管理者、職員の意識改革
・利用者の生活の見直し
・ケアの見直し
・職員研修の実施
・ケアの体制、組織の整備
・事故の実態把握と分析
・環境整備と改善
・事故が起きたときの対応
そして、身体拘束を行うことによる弊害としては以下の図が実証されています。
しかし、緊急のやむを得ない場合の要件として、例外3原則があります。
①切迫性:本人や他の利用者等の生命、安全が危険にさらされる可能性が著しく高い場合
②非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代わりになる介護法法がない場合
③一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものの場合
高齢者虐待の定義としては、
「意図的な傷害の行使、不条理な拘束、脅迫または残酷な罰を与えることによって身体的及び精神的な苦痛をもたらす行為」とされています。
高齢者虐待の主な種類としては以下の表となっています。
種類 | 内容 |
身体的虐待 | 高齢者の身体に外傷が生じ、または生じる恐れのある暴力を加えること |
心理的虐待 | 暴言または拒絶的な対応など心理的外傷を与える言動や態度を取ること |
性的虐待 | わいせつな行為をすること、またはさせること |
経済的虐待 | 高齢者の財産を不当に処分した利益を得ること |
介護放棄 | 減食や長時間の放置、同居人による虐待行為の無関心など養護を著しく怠ること |
こういった高齢者虐待の発生要因や背景としては、下記の図のようになっていると考えます。
虐待の背景には、当事者の要因と環境的な要因があり状況を適切に把握する必要があります。
そして、虐待ケースの援助の基本として7つあります。
①本人や家族の思いを理解、受容する
②名目として他の目的を設定して介入する
③訪問や声掛けによる関係づくりをする
④家族の困っていることから段階を踏みながら少しずつ対応の幅を広げる
⑤家族側のキーパーソンの発掘、協力関係の構築をする
⑥主たる支援者を見極める
⑦緊急性の高い場合は法的根拠により保護する
実際に高齢者虐待が発見された場合の対処としては以下となります。
ここで出てくる高齢者保護には4つの要件があります。
①生命が危ぶまれる状況が確認される。もしくは予測される
②本人や家族の人格や精神状況に歪みが生じている。もしくはそのおそれがある
③虐待が恒常化し、改善の見込みが立たない
④高齢者本人が保護を求めている
高齢者虐待に対する支援体制の課題としては、本人も養護者も支えていくという正しい理解が必要です。専門スタッフ教育を拡充して、虐待に対する支援者の意識改革をすすとともに、一般市民の権利擁護意識を啓発して「虐待=早期発見、通報」という認識を持つことが大事です。