「プリセプター」
それは、当院のリハビリテーション室の教育マネジメントにおいて、根幹を支える重要な存在です。
今年度も10名ほどの新人さんが入職して、その分だけプリセプターの役割を担った先輩方がいました。
学生さんとは違い、臨床現場では業務成績やスキル、知識が求められますから
「新人教育」=「リハビリの質」に直結します。
今回はその新人教育におけるプリセプター制度について、当院リハビリ室の取り組みや課題となっていること、今後の展望を記載していきます!
プリセプターを訳すると?
語源はラテン語であり、「プリセプト=教訓」が元となっています。
その”教訓”を次の世代に伝える者を「Preceptor”プリセプター”」と訳しています。
とりわけ、医療業界では
比較的経験年数の近い3~4年目の先輩スタッフが新人スタッフにマンツーマンでつき、臨床業務に必要な技能を指導・援助・教育する役割を担っています。
プリセプターの悩みと大変さ
ついこないだまで、新人だった自分自身が、
ようやく臨床業務に地に足が着いたかと思う時期に、新しく後輩が入職してきて、
その教育係を任される。
先輩セラピストとして、「頼りになる存在にならないといけない!」と思ったり、
「業務のことや臨床に関しての勉強のこと、あれもこれも教えないといけない!」
と気負う気持ちが責任に感じることもあります。
また、新人さんがミスをすると、そのミスを見ていた別の先輩セラピストが、その新人さんに直接指導するわけではなく、
担当しているプリセプターに対して、
「あの新人さん、〇〇で間違っていたから、注意しておいて」。。
みたいな、新人さんのミスを指摘する役割になったりと、精神的な負担をしいられる場面もあります。
そんな、マンツーマンで担当することで、新人教育をプリセプター任せになり、
リーダーや役職者は他の業務で忙しく、新人の進捗状況に気にもかけず、
一方的に、「プリセプターからの報連相がなかったから協力のしようが無かった」
という言い訳のような教育放棄が、、、
結果的に新人とプリセプターの二者完結になってしまうことがありました。
そうなると、新人さんの成長が遅い=プリセプターの教えが悪い
という構造になってしまいます。。。
当院のプリセプター制度
そんな、プリセプターの大変さを改善すべく、徐々にプリセプター制度を改定しています。
それこそ以前までは、新人さんがミスしたら、職場の雰囲気としては
「プリセプターの教えが悪い」という感じでした。
とは言え、3~4年目のプリセプターも業務や臨床のことをすべて理解している訳ではなので、さまざまな課題や問題に対して新人さんとプリセプターだけの二者完結にならないように、
グループを活用したプリセプター制度へと変更しています。
具体的には、、
各部門(PT、OT、ST)ごとに5~6名のグループを編成して、
リーダーを中心に相談役としての役職者(主任~副主任)が配置されています。
また、プリセプターと同期となるメンバーも新人さんのフォロワーとなるようにしています。
また、定期的に行われる新人さんのフィードバックの際には、現在の進捗状況を確認するためのチェックリストを用いています。
そして、そのチェックリストのフローチャートとしては、、
こんな感じで、新人さんの進捗状況をプリセプターが発信して、リーダーが俯瞰的に把握するように関わり、必要に応じてグループのメンバーを活用できるようにすることが理想です。
そうすることで、新人育成をプリセプターだけの責任をせず、グループや部門、リハビリ部署として関わることが大切です。
新人さんの「教育」と「育成」の違い!?
一般的に教育とは、学校や職場などで、リハビリの知識や技術を教え、新人さんに専門職として指導することです。
つまり、ある特定の目的(リハビリ専門職)に向かって知識を伝え、新人さんがそれを習得することが主な目的となっています。
一方で育成とは、新人さんが成長するために必要な様々な能力や素養を身につけることを指します。
これには、社会性やコミュニケーション能力、調整力、自己管理力などの、国家試験の勉強では習得することができない非学術的なスキルも含まれており、仕事では非常に重要になります。
つまり、教育は主に専門的な知識を伝えることに重点が置かれ、育成は人間性や社会性、キャリア形成などを含む広い意味での「育てる」ことに主眼が置かれます。
では、新人さんが”どういう状態”になったら「育成」されたということになるでしょうか?
それは、、、
「個人の頑張り(成果)が組織(リハビリ室)や対象者(患者さん)に利益を生み出したら」育成されたということになります。
リハビリは患者さんへ、理学療法なり作業療法なり、言語療法といったサービスを提供することで、その対価として診療報酬を受け取っています。
リハビリテーションのサービスに関しては、関連記事をご参照ください~
つまり、疾患別単位や総合実施計画書、退院時指導や退院前訪問などが診療報酬となり、
これらを仕事として実行して組織や患者さんに利益を還元できるまでの育成が必要になります。
その育成のためには、現行で使用しているチェックリストを使用して、新人さんの現在の到達点や課題をプリセプターやリーダーも交えて確認して、フィードバックしています。
ですが、そのチェックリスの内容として、評価基準が曖昧になっている課題があります。
例えば、リハビリ計画立案の項目では、「適切なリハビリ目標設定を立案して、目標達成に向けての治療項目の選択・遂行ができる」とありますが、、、
何をもって”適正”なのか?どの程度治療項目が選択できて、遂行できたら良いのか?という基準は新人さんとそれぞれのプリセプターによって違います。
この「できる」レベルに対する新人さんとプリセプターとの認識にはズレが生じてしまいます。
なので、具体的に”何が”できたら「できる」のかを明確にするようにチェックリスを見直す必要があると思いました。
今後の新人教育のシステムとツール
現行のチェックリスを見直すため、考案している評価方法が「ルーブリック」です!
これは、学習到達状況の評価基準を具体的行動で示したものです。
クリニカルクラークシップのような「見学・模倣・実践」にも共通することですが、事実ベースで、新人さんが起こしたアクションを段階的に評価します。
例えば、先程の「リハビリ計画立案」であれば、
「他職種と協議して、予後予測のもと目標を設定し患者や家族と合意形成ができる」ことが、
実際に主治医に予後を聞いたり、PT・OT・ST間で目標をすり合わせたり、患者さんへリハビリの到達目標を確認したりなど、具体的なアクションが実行できたら、
評価基準としては→A:良くできている となるでしょう
「教科書通りの目標設定し先輩からフィードバックをもらいながら修正することができる」としたら
評価基準としては→B:まあまあできている
といった具合で行動指針として表記しているので、お互いが納得しやすく評価できるのかなと考えています。
ただ、これは簡単なことではなく、、
「この項目は、これとこれができるようになればOK!」というリハビリ組織が考えるクリア基準を言葉で明確に表記して共有する必要があります。
なので、今後は指導者や教育者によって求めるレベルが異なるので、教育に携わるメンバーが集まって評価基準や新人さんの到達ゴールを共有する必要があります。
教育者としてのマインド
①新人は必ず伸びる
ただし、成長の歩みには個人差があります。焦らず、その可能性を信じてあげることです。そうすることで新人さんもその期待に応えようと頑張ります。いわゆるピグマリオン効果と言われる相乗効果ですね。
②教育の到達点は自分が変わること
教育のゴール(到達点)と言われると、新人が成長すること!と思われがちですが、実は違います。僕らのリハビリ介入が画一的なアプローチではないように、新人さんにも個別性がありますから、教育者自身の器を広げ、支援の引き出しを増やすことが大事です。この辺は結構なトライ・アンド・エラーを繰り返し積み重ねる必要があります。
③「きょういく」のスタンス
プリセプターは新人さんの一番の味方であり、寄り添う存在であってほしいです。なので、さまざまな課題に直面しても共に学び・共に育つ関係性が大事です。
そして、リーダーや役職者は新人さんやプリセプターの頑張りを認め、常に気にかけことが大事です。いろんな業務に押し寄せられますが、新人教育に関心を寄せて、フォローする・協力することで、リハビリテーション部署の教育は醸成され、そして武器になります!
特に若手セラピストが多い当院リハビリ室は、この教育や人材育成が上手くいくかどうかで「リハビリの質」が決まってくると言っても過言ではないと思っています。
以前のひと昔のように「たくさんの指導者で少ない新人を育てる」のではなく、「教育システムやチェックリストなどのツールを使っての教育」に変わりつつあります。
これからも「教育する側のスキルアップ」が必要になってくるでしょう!
そして、職場では必要な場面で”教える”ことも大切ですが、
「学ぶことをサポートする」という意識も大切と思います。
それが、教育の本質かなと思う今日のこのごろ。。。