九州全体で地域移動支援について考えよう! ~WEB研修会を開催~
運転の先にある暮らしを支える 九州のWEB研修会で学んだ地域移動支援
普段関わっている患者さんは、退院後、どうやって買い物や通院に出かけるのでしょうか。もし車の運転が難しくなったら、趣味や友人との交流など、大切にしている外出を続けられるでしょうか。
運転支援や地域移動支援は、こうした身近な問いから始まります。
2026年9月13日(日)、九州作業療法士会長会主催、九州作業療法運転と移動支援委員会によるWEB研修会「九州全体で地域移動支援について考えよう!」を開催しました。
講師にお迎えしたのは、森ノ宮医療大学講師で作業療法士の鍵野将平先生です。
鍵野先生は、和歌山県で「運転すんの会せんの会」を立ち上げ、病気や障害のある方の運転再開支援や、高齢者が安全に運転を続けるための活動に取り組んでこられました。さらに、運転を終えた後も地域で自分らしく暮らせるよう、移動手段や生活を一緒に考える支援にも力を注いでいます。
「運転すんの会せんの会」の活動は、わかやま新報でも紹介されています。発足当初の取り組みや、脳卒中の方の運転再開を支えるパンフレットづくりについて、こちらの記事から読むことができます。
運転すんの会せんの会 障害・高齢者支援|わかやま新報(2017年10月25日)
研修の前半では、こうした取り組みがどのように始まり、地域へ広がっていっのかを伺いました。
後半は各県のグループに分かれ、「自分たちの地域では、何から始められるだろう?」をテーマに意見を交わしました。
今回は、運転支援や地域移動支援に関心のある作業療法士や医療職の皆さんに向けて、日々の関わりのヒントになる研修の学びを記事にしました!
始まりは、小さな勉強会から
教習所、警察、行政、企業と連携していると聞くと、「自分たちの地域で始めるのは難しそう」と感じるかもしれません。
鍵野先生が繰り返し伝えてくださったのは、和歌山県にも、最初から完成した仕組みがあったわけではないということでした。
出発点は、運転支援について仲間と学ぶ「運転すんの会せんの会」という勉強会。病院での運転再開支援に取り組みながら、パンフレットを作り、学会やSNSで活動を発信していったそうです。
その積み重ねが教習所などとの連携につながり、さらに地域で暮らす高齢者への活動へと広がりました。取り組みを知った団体から、「私たちの地域でもできませんか」と相談が寄せられるようになったといいます。
相談を受け、小さく実践し、その経験を伝える。それが次の相談につながる。
この歩みから、今あるつながりや目の前の困りごとを出発点にできることを学びました。
運転を続けることと、やめた後の生活を一緒に考える
車は、買い物や通院だけでなく、仕事、趣味、友人との交流などを支えています。公共交通が少ない地域では、車が日々の生活に欠かせないこともあります。
一方で、年齢や病気による心身の変化に応じて、運転の安全性を考える必要があります。また、運転をやめた後には、外出しにくくなったり、人と会う機会や役割が減ったりする心配もあります。
そこで講演では、次の二つを一続きに支える考え方が紹介されました。
- 安全運転延伸:心身の変化に気づき、運転の仕方を見直しながら、安全に運転を続けられるよう支えること。
- 運転終活:将来、運転を終えるときに備えて、その後の移動や暮らしを考え、準備すること。
安全面を確認しながら、本人が運転を大切にしている理由にも耳を傾ける。そして、これからの生活を本人や家族と一緒に考える。そこに、作業療法士をはじめとする医療職が関われることがあります。
「知っている」を「使ってみる」につなげる
和歌山県の講座では、体操や心身機能の測定、運転体験などに加え、地域の地図を使った「ヒヤリハットマップ」づくりが行われています。
いつも通る道の、どこでヒヤリとしたのか。どんなことに気をつけているのか。地域の人同士で話し合うことで、自分の運転を具体的に振り返る機会になります。
運転を終えた後の準備として紹介されたのが、車以外の方法で出かけてみる「ノーマイカーデー」です。
まずは、普段、車でどこへ何をしに行っているかを書き出します。その中から続けたい外出を選び、別の移動手段を考え、実際に試してみます。
近くにバス停があっても、目的地に合う便があるとは限りません。時刻表の見方や乗り継ぎ、荷物を持って歩く距離など、使って初めて分かることもあります。
鍵野先生も、車を使わずに通勤する中で、バスの乗り継ぎを間違えた経験を話してくださいました。支援する私たち自身が試してみることも、地域の移動を知る大切な機会になりそうです。
医療職は、暮らしと地域をつなぐ役割を担える
地域移動支援には、医療・福祉だけでなく、交通、行政、企業、地域住民など、多くの人が関わります。
講演では、リハビリテーション専門職の役割として、本人の暮らしと地域のさまざまな専門性をつなぐ視点が示されました。
例えば、「バスに乗れない」という困りごとにも、停留所まで歩くのが大変、乗り方が分からない、目的地に合う便がないなど、異なる背景があります。本人の話を聞き、生活場面を確かめることで、誰と一緒に考えるとよいかが見えてきます。
作業療法士には、本人が何をしたいのか、そのために何が必要なのかを具体的にする力があります。その情報を地域包括支援センターや生活支援コーディネーター、交通事業者などと共有し、話し合いを支えることも地域移動支援の一つです。
各県の話し合いから見えてきた、小さな一歩
グループワークでは、「どこで・誰に」「誰と」「まず何をするか」を話し合いました。各県からは、日々の仕事や既存の活動を生かした案が挙がりました。
- 福岡・長崎:老人会などでの講話や、行政・教習所との情報交換、移動手段を伝えるパンフレットづくり。
- 佐賀:院内講座や介護予防教室に、運転や移動の話題を少しずつ取り入れること。
- 大分:市民向け講座の経験を共有し、オレンジカフェや地域包括支援センターとの活動につなげること。
- 熊本:広域支援センターや地域行事とのつながりを生かし、通院などに使える移動手段の情報を届けること。
- 宮崎:退院後に使う道や地域の支援資源を知り、実際の暮らしを見据えて関わること。
- 鹿児島:リハビリテーションの中で将来の移動を話題にし、支援者自身も代替手段の利用方法を学ぶこと。
- 沖縄:地域ごとの移動環境を踏まえ、本人・家族、医療機関、教習所、公安委員会などとの連携を広げること。
鍵野先生からも、既存の講座に運転や移動の話題を組み込むことや、日々の会話の中で運転について尋ねることの大切さが伝えられました。
新しい事業を立ち上げる前にも、始められることはありそうです。
沖縄では、病院での支援を地域の暮らしへどうつなぐか
沖縄グループには、急性期、回復期、地域包括ケア、精神科など、さまざまな領域の作業療法士が参加しました。離島や北部など、地域によって使える移動手段や支援資源が異なることも共有されました。
院内で運転支援の体制づくりを進めることと、運転を終えた後の暮らしを支えること。その両方を地域の中でどうつないでいくかは、今後も考えていきたい課題です。
今回の話し合いを踏まえると、各施設ができることや相談先を共有し、必要なときにつながれる関係づくりが、一つの方向性になりそうです。
「ちゅら島の移動を考える会」のような交流の場にも、医療職や教習所、関係機関が互いを知り、困りごとを相談できる場としての可能性を感じました。
活動を続けるために、経験を伝え、仲間と分担する
質疑応答では、活動を継続するための人材確保について質問がありました。
鍵野先生からは、委員会内で役割を分担し、学会や研修会、士会の総会などで活動を紹介しながら、協力者を募っていることが紹介されました。
また、シニアカーの導入に関する質問では、販売・レンタル事業者と一緒に、自宅や実際の移動経路を確認している事例も共有されました。支援に必要な知識や経験を、関係者と持ち寄る大切さが伝わるやり取りでした。
九州全体でも、各県の実践を知り、相談できる相手とつながり、それぞれの地域で試したことを共有する。そんな循環を育てていければと思います。
明日の関わりで、外出について聞いてみる
閉会の挨拶では、作業療法士が本人と一緒に「生活の棚卸し」をするという言葉が印象に残りました。
今の暮らしを振り返り、これからも大切にしたい活動や必要な支えを一緒に考える。運転を手放すときの気持ちにも寄り添いながら、その後の生活を支えていく。作業療法の役割を改めて考える言葉でした。
まずは、普段関わっている方に「買い物にはどうやって行っていますか」「これからも出かけたい場所はありますか」と聞いてみる。そこから、その人にとっての移動の意味が見えてくるかもしれません。
今回の研修で得た学びを、それぞれの地域での小さな一歩につなげていきたいと思います。


